子供のころから無類の本好きの私にとって、図書館は本屋さんとは違った楽しさがある場所です。
図書館の本棚が見える場所に立って、ここにある本はどれでも好きなだけ読んでいいんだ、と思うと嬉しくて胸が高鳴ります。利用者としてはもちろんのこと、学生時代のアルバイトや、その後は仕事としても図書館に関わってきました。

そんな私にとって、移住してきた広川町の〈広川町立図書館〉はちょっとした驚きでした。
いつ行っても話題の本が新刊コーナーに並んでいる。児童書の品ぞろえも幅広く、海外の絵本の翻訳版などの小さな書店ではなかなか見当たらないような本もあります。
大手の取次会社に選書からカウンター業務までお任せ、という図書館も増えている中で、司書の皆さんが自ら本を選んで購入していると知って、ぜひお話を聞いてみたいと思いました。

そこで2021年4月1日、広川町立図書館の梶原館長と5名の司書の皆さん(大谷さん、高橋さん、中島さん、増永さん、村上さん)にお集まりいただいて図書館についての座談会を行いました。

※福岡県の緊急事態宣言の発出により、広川町立図書館は臨時休館しています。予約貸出に対応していますので、詳細は広川町のホームページをご確認ください。
 休館期間:2021年5月12日(水)~31日(月)

 


〈広川町立図書館について〉
広川町立図書館は館長の梶原さんと5名の司書さんをはじめとするスタッフによって運営されています。2014年7月オープンのまだ新しい図書館で、柱や梁などに使われている木材の木目も美しく、明るい雰囲気の空間です。
蔵書数は約8万冊。広川町内在住の方をはじめ、八女市、筑後市に住んでいる方、また広川町内に通勤・通学している方の利用者登録を受け付けています。


〈広川町立図書館スタッフによる、おすすめ図書紹介!〉
座談会の初めに自己紹介を兼ねて、広川町立図書館の蔵書の中からおすすめの本をご紹介いただきました。コロナ禍での外出自粛が続いています。本好き揃いの図書館スタッフのおすすめ図書を、皆さんのおうち読書にもぜひ参考にしてください。

 

【村上 由紀さんのおすすめの1冊】

 

マーガレット・アトウッド『誓願』(鴻巣 友季子訳、早川書房、2020)

村上さん:2019年ブッカー賞を受賞した、今の私の「推し」です。

『誓願』の前編にあたる『侍女の物語』(斎藤 英治訳、新潮社、1990)は、「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」としてドラマ化されて映像配信サービスで配信されている人気作で、シーズン4が4月21日に始まります。
『侍女の物語』のアメリカでの刊行は1985年。それから35年たってやっと出版された続編がこの『誓願』です。ドラマのヒットをきっかけに書かれた『誓願』は、だいぶ寝かせた分、すごくまとまりのある続編になっています。
作品の舞台は、クーデターが起こされてキリスト教原理主義の国になったアメリカ。クーデターによって過激な男尊女卑の国になり、女性はこの表紙のイラストのようなファッションをさせられて虐げられるという話です。

本棚にあるだけではあまり借りられないかもしれない、と思って、本を探している利用者の方に声掛けするなど、カウンターで布教活動もしました。趣味が合わない方もいるとは思うんですけど、そういう時は「テレビドラマで話題ですよ」と、お話ししています。

 

【増永 暁子さんのおすすめの1冊】

 

凪良 ゆう『流浪の月』(東京創元社、2019)

増永さん:2020年の本屋大賞の受賞作で話題の本です。なので、あえておすすめする必要もないかもしれませんが、自分に娘がいることもあって余りにも衝撃を受けた作品だったので選びました。

小学校4年生の女の子と青年の話から始まる、考えられないような話です。(ネタバレになるので)あまり言わないほうがいいんですけど、誘拐からの再会の物語なんです。途中で、もう読めない、と思うぐらい重たい部分もあるんですが、ぜひこれは読んでいただきたいと思って選びました。
本屋大賞の本は全部好きで、全部読んでいます。

 

【中島 直美さんのおすすめの本】

 

塩田 妙玄『ペットたちは死んでからが本領発揮! ―ゆるりん坊主とネコ如来の禅問答』(ハート出版、2020)

中島さん:いわゆる「ペットロス」を取り上げた本です。
私自身も去年2匹ほど愛犬を亡くしまして、立て続けに。ものすごく落ち込んだ時にこの本に出合って、選書して入れてもらいました。

ペットを亡くした悲しみというのは、まだ一般的なものとして捉えられていないところがあると思うんです。それで、当事者も表立って悲しんでいいのかどうかを迷ってしまう。
私は仕事も手につかないぐらいだったんですが、この本を読んだことで堂々と悲しみを感じていいんだな、と思いました。それから、死んだあとのペットたちについても書いてあるので、それが本当のところかは分からない話ではあっても、自分自身は納得して前を向くことができました。

身近な人よりもペットの方が寿命が短いですし、ずっと飼っていると死を看取る回数も多くなります。そういう時に立ち直るきっかけになる本としてお勧めしたいと思います。

 

井上 荒野『ママがやった』(文藝春秋、2016)

『ママがやった』っていう題名だけを見て、私はてっきり、ママって呼ぶくらいなので主人公が30代~40代くらいの話かな、と思ったんです。
とある夫婦の奥さんが旦那さんを殺したところから始まる話なんですけど、なんとその夫婦がですね、奥さんはもう80近い。そして旦那さんも高齢。70ちょっとぐらい。そんな高齢のお父さんお母さんに対して、子供たちがママって言ってることに衝撃を受けて。とても意外でした。

あまり言うとネタバレになるんですが、この夫が次から次へと女の人が切れない。でも奥さんは別れない。そして結局、妻が夫を殺してしまうんですが、そこまでの過程や、3人の子供たちの最後の行動など、予想外の展開に引き込まれて、うまいなー、って思いました。

読んでいて、ずっと浮気され続ける奥さんが可哀想になるようなひどい男なんですけど、実際にその男性にあったら私も好きになるんじゃないかな、って(笑)。多分、魅力があるんだろうと。夫の不倫相手も、私と同年代の40代で共感してしまうところもありました。入り込める本なので、ぜひ読んでいただきたいです。

 

【大谷真美子さんのおすすめの1冊】

 

有川 浩『植物図鑑』(角川書店 : 角川グループパブリッシング、2009)

大谷さん:お勧めしたいのはもちろんなんですけど、ともかく私の大好きな本で家にもありますし、読むと何回も同じところで泣いてしまいます。映画化もされています。

ある日、主人公の女の人が仕事から自宅のマンションに帰ると、ドアの前でうずくまってる男の人がいて、「お嬢さん僕を拾ってくれませんか、噛みません、しつけはよくできた良い子です」と言います。
彼は花を撮る写真家で、中でも雑草を撮るのが好きなんです。ですが、有名な美術家の父親から、雑草を撮るような写真家は息子として不合格だ、と言われて嫌になって家出してきてしまったんです。彼が次の家を探す間、二人は一緒に住むようになって…、という恋愛の話で、いろいろあって最後はハッピーエンドになるんですけど。

私たちにはただの草に見える雑草を、この男の人は「雑草っていう草の名前はありません。雑草にも一つ一つ名前があるんだよ」って言うんです。私にとってはそのことも驚きでした。作品の中でもフキノトウの天ぷらを作ったりしますし、巻末には「タンポポの天ぷら」とか「フキの混ぜご飯」などのレシピも載っています。

個人的にさわやかな恋愛小説がすごく好きで、その中でもお勧めの作品なんです。


次回も引き続き、広川町立図書館スタッフのおすすめ図書紹介をお届けします。お楽しみに! (冨永)

 

【広川町立図書館スタッフによるおすすめ図書紹介】vol.1
【広川町立図書館スタッフによるおすすめ図書紹介】vol.2
【広川町立図書館スタッフ座談会―選書編】vol.1

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