「“ひろかわ”で作るひとびと」連載シリーズ

※そもそも久留米絣とは?を知りたい方はコチラ

かすり工房「藍の詩」冨久織物の4代目、冨久洋さん。この日は、藍の香りに包まれながらお話を聞かせて頂きました。その手には、先日の新作発表会でも登場した手織りの反物“さいわい”が。規則正しいパターンの中にある、優しい絣のゆらぎが美しくまじまじと眺めてしまいます。

広川町で生まれ育った洋さん、昔はもっといろんなところでカチャカチャと機の音がしていたと懐かしそう。織屋の件数はもちろん、出機といって機屋さんから依頼を受け自宅で織る織子さんも多く、学校の帰りに呼び止められ「もう反物上がってるから持って帰って」と言われたこともしばしば。機のリズムといちご畑、大らかで自由な風景が目に浮かぶようです。そんな中、小学校2年生の時にドイツ人デザイナーのデザインしたバイクとの出会いがきっかけで、工業デザイナーを目指しデザイン科のある二日市の高校へ進学。毎月ご両親から頂く交通費+教材費、その大半を占めるバスの定期代を自転車で西鉄久留米駅まで行くことで浮かせて教材費に回してやりくりしたそう。高校3年生の時には、大学進学へ向け毎日3枚はデッサンをする日々、そんな経験が今に生きているとおっしゃいます。

常に職人、つくりてでありたい

洋さん曰く、特徴がないのが特徴のかすり工房「藍の詩」冨久織物では、織は動力も手織りも、染色は化学染料も藍染もと、正にフルコースで絣をつくられています。そんな経験豊かな工房へは、産地内の他工房からの染色依頼も集まります。家庭内でも完全に分業されていて、化学染料での染色は父の公博さんが一手に担われています。大学時代は染色や織りを学び、できると思っていた洋さんも、そんな公博さんの元で”仕事”にすることのシビアさに気づきます。

作家ではなく、あくまで注文をもらってつくる以上、お客様の満足のいくものにするために、自分を消しても相手の好みに合うようにと常に考えられています。お客様から図案が出てくる場合も多い中、洋さんはご自身でデザインを起こします。リクエストに応じて2~3時間でまずアイデアを上げて、すり合わせていくそう。また、あるブランドとの取組みではデザイナーが自由に描いたデザインを、絣の図案に落しこまれるそうです。そんな時は、一発OKを目指して、デザイナーといかにイメージをシンクロさせ、どこまで絣で表現できるかを考えることがチャレンジだとおっしゃいます。きちんと絣をつくるのは当然のこと、その上でどこまで相手の要望に応えられるかだと。絣の魅力は完成がないこと、反物としてその時のベストの形に仕上がるが、もっともっと…と、今でも理解できない絵と織りあがりの違いを追求し続けることが楽しい、と洋さん。

地場問屋との共存

産地が成長する上で、誰一人置き去りになってはいけないというのが洋さんの考え方。今までこの産地が続いて来れたのは、それぞれの立場で役割を分担し協力し合ってきたからこそ。時代や状況が変わっても、その感謝や思いやりを大切にされています。産地を未来へ繋ぐために先頭を切っていく企業があってもちろん良い。ただ、それぞれの置かれている状況や企業体力に差があるのも事実。だからこそ、先頭集団があって余力のないところはそのあとをついていくような縦長のスタイルで良いのではないかと。

広川町の観光についても同様に、こののんびりとした土地のペースに合った成長の仕方が無理がなくて良いのではないかとおっしゃいます。そんな洋さんが見据えるのは、海外からのお客様。今も少しずつSNS等の情報をみて、直接工房にアポを取って見学や体験に来られるお客様が増えてきているそうです。絣で呼べる人数は限られるからこそ、一気に沢山の方にお越し頂くのではなく、そういった心から絣に触れたいと関心を寄せてくださる方に、丁寧に対応していくことで広川町から世界へ繋がりが広がっていくのでは。そして、訪れた季節によっていちごがある、お茶がある…ともっと深くこの土地を知ってもらえたらと。そして、そんな洋さんの心強い味方が大学生の娘さん。英語が堪能で通訳が必要な場面では、都合がつけば駆けつけてくださるそう。家業についても誇りを持って色んなところで話しをされるそうで、そんな想いを持って海外に羽ばたいてくれればと目を細められます。

 

冨久さんに初めてお目にかかったのは観光協会の総会で、ビシッと久留米絣のお着物を着られていてカッコいいなと思った事を覚えています。今回お話を伺うにつれ、“プロフェッショナル”ということばが頭に浮かびあがりました。適当な仕事はない、どんな仕事でもきちんとしておかないとできない、だから自身の手が行き届く範囲でつくり続ける。ブレないその信念の強さを感じたインタビューになりました。(山口)

 

 

【連載記事「“ひろかわ”で作るひとびと」について】

久留米絣、フルーツ、野菜、花、すだれなど、福岡県広川町で自然や地の利を生かし、“何か”を生み出す生業をされているさまざまな人々をインタビューし、紹介していく連載企画。広川町に移住をしてきた私たちの視点から見えてくる、この土地ならでは、その人ならではの魅力をお伝えしていきます。

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