「“ひろかわ”で作るひとびと」連載シリーズ

※そもそも久留米絣とは?を知りたい方はコチラ

昨年125周年を迎えた、野村織物4代目野村周太郎さん。その手には誰もが納得の代表柄”花菱格子”の反物。タテヨコの正確なパターンの美しさはもちろん、現代の日常にも取り入れやすい素敵なテキスタイルです。

周太郎さんは、高校進学を機に県外へ。東京の大学を卒業後そのまま就職され、家業を継ぐため広川町へ戻って来られたのは26歳の時。その頃になると、かつての地元の友達も各地へ散り散りとなり、遊ぶという感覚はなく、仕事ばかりの日々。始めの3年間はお手伝いレベルの作業の積重ねで、もし実家暮らしでなければ生計を立てることは難しい収入だったと当時を振り返ります。そんな経験もあり、自身が会社を引張る立場に立つ今、いかに従業員の生活を担保し、息子さん達が引継いでも良いと思える基盤をつくるのかが奥様と取組まれている課題だとおっしゃいます。

王道の糸づかいと豊富な色表現

無地の経糸以外は全て自社で染色を行う野村織物の特徴は、何と言ってもその色の豊富さだと周太郎さん。あえて昔からの糸づかいにこだわり、色柄での表現を続けておられます。年間50~70の新柄が生まれるスピード感も、顧客の要望を再現できる自社染色があってこそ。企画打合せから全てが同時進行で進み、図案、糸の仕込み、色の配合表が揃えば翌日には染色が上がるそう。外注すれば染色に2週間程度かかるので、大幅な時間短縮が可能になる。そして、その染色は毎朝周太郎さん自らが行います。昔は仕上げまでご自身でされていましたが、今では最終仕上げは従業員さんへお任せできるようになり、イベント等外に出る時間も作れているそう。

そんな中、今新たに取り組まれているのが、廃業された織元さんより引き継いだ4種の緯糸を使い分けることができる4丁織機を用いて、チェック柄や”文人”柄を生産すること。そして、文人絣のように細かい柄を出すために“おんぬき”と呼ばれる布状にした緯糸を染める技法を化学染料を用いて表現しようとされています。藍染で染色する条件とは違い、化学染料での染色は高温になり色が浸透しすぎる、控えて薄く上げると堅牢度が落ちる…その塩梅を今試行錯誤されているそう。一年近く眠っていた織機たち、錆を取り除きモーターの調整もした、実際にどれくらい動くかはこれから動かしてみないとわからないが、GW明けから動かせるよう準備は整った。

子育てのしやすい町へ

昔から町が絣業界へ協力してくれることに対して、甘えるだけでなく還元していく事が大切だと、昨年から町が推進するふるさと納税の仕組も取入れイベント等で運用されています。かすりまつり等事業者の集まるイベントで産地全体で取組めれば、更に町への貢献が広がるのではと。広川町は田舎だけど、交通の便も悪くないし住みやすい町。仮に家を新たに建てるとしてもこの中広川に建てると言い切る周太郎さん。そんな周太郎さんが熱望されているのが、子どもたちが遊べる公園施設。いつも休みになると、この町を出なくてはいけない、小学生の子が遊んで飽きないところがあれば良いのにと。広川町はあれがあるよね、といった公園や施設があれば町外からも人は来るし、遊びに来る人は駐車料金が掛かっても来る、そこに食べ物があればそれで1日が完結できる。そこには、3人のお子さんを想うお父さんの顔がのぞきました。

最若手は20代と若い従業員さんも多い野村織物、生地を産む現場では従業員の替えはきかない、だからこそその雇用を守ることをしっかり考えられているんだと、今回改めて感じました。そして、産地として生き残るためには組織として雇用を生むことが必要だと。赴任後、お目にかかった際に“止まっている暇はない”とおっしゃっていたことを思いだしました。自社のことだけでなく、産地の為に動くことも誰かがやらなくてはいけないと、次の世代へバトンを渡す覚悟を見たインタビューになりました。(山口)

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