「“ひろかわ”で作るひとびと」連載シリーズ

※そもそも久留米絣とは?を知りたい方はこちら

久留米絣山藍の4代目、山村省二さん。その背中には、“超新星”と名付けられた反物の仮仕立て。超新星爆発の誕生や広がりをイメージされたデザイン。3色に染め分けた藍色で表現される宇宙はとても神秘的で吸い込まれそうな美しさです。

幼少の頃から、職人の手で藍や草木で糸を染め久留米絣が織りあがるまでを間近で見て育ち、高校生の頃は手伝いもしていたという省二さん。それでも、ぼんやりと継ぐんだろうな…位の感じで、そのスイッチが入ったのは修行から戻られてからだそうです。修行中は経験が浅く全てを理解できている訳ではなかったが、家の仕事をやり始めて、こういうことだったのかとわかるようになった、経験は後から役立つと。そんなご自身の経験があり、若い人には是非外に出て視野を広げることが大切だとおっしゃいます。

灰汁発酵建てへのこだわり

重要無形文化財である、久留米絣の技術保存会理事をつとめられ、ご自身も技術保持者の省二さん。藍染めや草木染めにより100%工房内で染色を行われており、合成物は使わず天然素材のみで建てる藍染めには特にこだわりを持っておられます。家に戻られ本格的に藍染めを始めて40年、毎年蒅(すくも)の状態も違うし、同じ年につくられたものでもそれぞれ調子が違ったりする、その見極めや管理には経験を積むしかないとおっしゃいます。そんな手をかけた天然藍で染める魅力は、タデ藍という植物の色んな要素が溶け込んでいるところ。藍以外にも赤系や黄系の大きさの違う粒子が薄く絡み合って染まりつくので色落ちしにくく、それぞれの反射の違いから見る角度で藍の色味も違って見える。深い色に染めたのに透明感がある、と。

そして、藍を通じて他産地との交流も積極的に行われています。蒅(すくも)と呼ばれる、タデ藍の葉を発酵させた染料は、徳島県上板町の藍師さんより購入されています。その交流は深く、お互いにより良いものづくりにつながるよう、普段からその年の蒅(すくも)の調子等について密に連絡を取られるそう。また今年の2月、技術保存会では琉球藍製造技術保存会、阿波藍製造技術保存会と沈殿藍の知識を身に着ける等の目的で合同研修を行われたそうで、つくっている人と使っている人の横のつながりも広げられています。現地へ行って見聞きすると情報の入り方が違う、ネットで容易に情報を得られるようになったがその土地の気候や空気感は行ってみないとわからない。そしてこの土地だから、この染料なのかな、この柄なのかな…と受けた刺激が、帰ってきてからのモチベーションにつながっていくとおっしゃいます。

“外から来たひと”の刺激

久留米絣の特徴は、機械織りがあり手織りがあり文化財があり、と全てが揃っているところでこれを守っていきたい、と省二さん。そんな省二さんの元には、30年のキャリアを持つお弟子さんがいらっしゃいます。省二さん曰く、外から飛び込んできたひとは、元々家に環境が揃っている織元とは気構えが違うそう。だからそんな方々が頑張っていると活性化につながるし、こちらも頑張らないと、とよい循環が生まれる。地元でやる人だけでは限られてしまう、と省二さんの懐は深い。これからの産地の後継者を考えるとき、日本全国から若い人に来てもらえるよう久留米絣の学校があれば良いなと。今は各工房が個人的に受け入れるしかないし、もし個人的に来られても忙しくて対応できなかったりすると、そこで途切れてしまう。特に文化財は若い人でも挑戦できると省二さん。3年の就業経験と5年の研修と少なくても8年の時間はかかるが、純粋に技術を学んで日々積重ねることができれば道は開ける。行政と協力して、明確な受け皿をつくり就職までの道筋を準備することができれば需要も増えるだろうし、今のうちにつくらないとと熱がこもっていました。

初めて省二さんにお会いしたのは、工房前の道を通りがかった時でした。ご挨拶させていただくと、「あぁ聞いてるよ、よろしく」と声を掛けて頂きとても嬉しかったことを覚えています。今回のお話しの中でも、外から人が来てくれるのが良い刺激になる、とプラスにとらえてくださっていることが端々で感じられ、正に外から来た私たちにとっても励みになる温かい時間となりました。(山口)

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