「“ひろかわ”で作るひとびと」連載シリーズ

今回からは、季節に合わせた「ひろかわ町の農産物をつくるひとびと」についてもご紹介していきます。春先は新茶の季節。4月から5月にかけて茶畑には新芽の鮮やかな緑が広がります。今回、広川町で唯一お茶の製造行程である生葉の栽培・荒茶加工・仕上げ加工・販売まで全てを行っているお茶農家「鍋田製茶」の3代目 鍋田武寛(なべたたけひろ)さんにお話を伺いました。鍋田製茶さんは、もともとは問屋に卸すお茶の卸業者だったそうですが、今は全国に地方発送する小売を主流におこなっているそう。インタビュー時はちょうど1番茶の製造行程が終了し新茶が仕上がっていました。

 

お茶農家になる

武寛さんは3兄妹の次男で、お茶農家である家業を引き継ぐという意識はもともとあまりありませんでした。それでも10代のころは静岡の茶業試験場に通いながらお茶生産のアルバイトなどをしていたそうです。卒業後、広川へ戻りJAからの声かけでお茶の指導員として2年間農協に在籍することになりました。しかし、家庭の事情などもあり22歳の時に急遽家業を継ぐことに。お茶の製造方法については昔から見ていたことと、アルバイトをしたことでなんとなくの流れはわかるものの、教えを請う存在がいなかった武寛さんは手探りでお茶の製造を学んでいきました。当時は生葉農家が荒茶の行程をしてほしいという依頼も多く、何十件分もの生葉を状況・状態に合わせて調整しながら一人で茶葉を揉み必死に技術を研磨したそう。当時は徹夜が続いたり苦労したが、だからこその経験値をたくさん持っていると朗らな笑顔でおっしゃいました。これまで続けてこれたのは、茶業試験場に通った仲間が近くで同じ仕事をしていたこともあり、相談や話し合いができたことも大きかったと語ってくれました。

お茶本来の味を求めて

鍋田製茶では露地栽培のお茶にこだわりを持っています。露地栽培は自然に植えて、自然に育てる方法ですが、肥培管理等の栽培面や荒茶加工においても揉み作業での微調整をする技術が必要があるため良いお茶を作るのが難しい方法でもあります。露地栽培で出来あがったお茶は本来の渋みと素材の味を感じるお茶に仕上がります。今のお茶生産の主流はバロンと呼ばれる被膜資材を木に被せ、色付けと渋みを無くす方法を取っているため鮮やかな緑色をした飲みやすいお茶に仕上げることができるそうです。しかし、武寛さんにはそれだとお茶の味が失われているように感じると言います。時代とともに飲みやすく食べやすくなったものが溢れ、素材の本来の味を知る機会が減ってきていることに対し、(それでいいのだろうか。みんな同じものでなくていい。違いがあるからその価値を楽しめるのではないか。若い年代の人たちにも本来の素材の味を知って感じてほしい。)そして自分自身も本来の味がするお茶が好きだという思いから露地栽培にこだわり続けています。

お茶農家の未来

生活スタイルや食生活も変わり今の若い世代は、昔のように急須でお茶を飲むという習慣がなくなってきているため、お茶を味わう機会が減りました。ペットボトルのお茶などは、品質としては全く異なるもので本来のお茶の味はわからないし、お茶農家としてもお茶の売り上げにつながるものではないため、お茶の消費は右肩下がりです。これからお茶の消費を増やしていくには、本来のお茶は美容にも健康にも良いものであることや、自分たちで煎茶を作って飲んだほうが経済的であることを知って、お茶を飲むことが新しいスタイルとしてのムーブメントが起こるなど、きっかけが必要と感じています。そのために農家としては、まずは良いお茶を作る必要があると考えているとおっしゃいました。福岡県や町としても力をいれているお茶栽培だからこそ、商品を正当に評価してもらうことで価値が生まれ良い循環が起こり、必然的にまた良いものができる流れへと繋がる。武寛さんは、お茶の価値を残すため、露地栽培のお茶を作り続け評価してもらえるよう伝え続けています。

 

インタビューをする際、鍋田製茶さんのお茶を淹れていただきました。一口飲んで、良い香りとお茶の渋みを感じながら、脳裏には夕飯のあとにお茶を飲んでいた実家の風景が浮かびます。懐かしさと久々に感じた本来のお茶の味に衝撃でした。今回のお話を聞いて、私自身も現代的なお茶の味に、いつの間にか舌が慣れてしまっていたんだなと思いました。しかし、年齢とともに体の変化に伴い、生活スタイルや食に関する関心も大きく、素材本来の味をそのままに取り入れていきたいと感じています。こだわった茶葉で淹れたお茶を飲むというゆっくりした時間は贅沢なひとときかもしれません。

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