6月から8月まで、ゲストハウスOrigeでお試し居住をしながら、宝島染工と下川織物で働き、ひろかわ暮らしを体験された西さん。
3回に分けてお届けするお話の第2回目は、「連携雇用」という働き方についてです。
今回、西さんは週3回宝島染工で働き、残りを久留米絣織元の下川織物で働くという複業スタイルをとりました。
宝島染工の大籠さんによると、生産現場の課題を考えるうち、このような複業での働き方ができないか、以前からアイデアとしては持っていたそうです。
繊維産業に限らず、仕事の現場で人手不足だと感じても、1人分の仕事量とまでは言えず、皆で少しだけ無理して働けば乗り切れる、ということがあります。もう1人雇用すれば楽になるものの、会社の収入が増えるわけではないので、結局このような人手不足感が常態化しがちです。下川織物の下川強臓さんは、この現象を「1.5人分の法則」と呼んでいます。
この各社に溜まっている「0.5人分」の仕事を持ち寄り、数社が連携して1人を雇用すれば、人手不足の解消につながるのではないか、と考えられたのが、今回の「連携雇用」という手法でした。
このアイデア自体は、決して新しい考えではありませんが、少なくともこの産地では、なかなか実現に結びついていません。
今回、実験的とはいえ実現できたのは、受け入れ側の大籠さん、下川さんの理解が進んでいたことに加え、不安定な環境でもチャンスがあるなら挑戦しようとする、西さんの勇気があったからこそでした。
そして、2ヶ月間試してみてどうだったか。西さんだけでなく、受け入れ側の大籠さんと下川さんも話してくれました。
ここでは到底全てを書ききれませんが、一つ課題となったのは、やはり「人材育成にかかる時間」でした。
そもそも今回の目的は、「研修」ではなく、「雇用」を前提に考えていました。
実際に就労したときと同じ仕事に入ると、一つの工程がある程度身につくまで時間がかかります。
久留米絣の生産現場では30以上の工程があるために、どうしても全貌が見えないまま一つの作業を行うことになります。久留米絣も分業されていますが、それでも他産地より織元自身が行う作業が多いのです。
西さんは、帰宅後、その日やった工程が全体のどこに位置するのか、資料で一つ一つ確認しつつ、ノートに記録していました。
しかし、結局全ての工程を経験することなく、期間終了を迎えることになりました。
全体の工程を理解してから現場に入ることが理想でしょうが、実際の現場ではそもそも人手不足なので、十分な時間が取りにくいのが現実なのです。
これを克服する一つの方法に、産地コーディネーターの育成があります。
これは以前、山梨県富士吉田市の地域おこし協力隊員で、「流しの洋裁人」としても活動している原田陽子さんが語ってくれたことですが、現場の工程の特性を理解したうえで、働きたいと思う人と受け入れ側とをマッチングし、各社でどれだけ働くかまで調整できるコーディネーターがいれば、人手不足も改善できるし、働きたい人の雇用も確保できる、というものです。今回の取り組みを通じて、その必要性を強く実感することになりました。
一方、複業で働くことの利点としては、コミュニティの拡がりが挙げられます。
西さんは、宝島染工や下川織物で出会う人だけでなく、広川、柳川、八女の人たちともつながっていきました。一ヶ所で働くと出会うことがない人に出会うことで、参加できるコミュニティが広がっていったのです。
これは、下川さんがつなぎ役をしてくださったおかげでもありますが、私たちにとっては、「地域とは何か」を考える良いきっかけにもなりました。
地域とは、地理的な概念として捉えられがちですが、私たちにとって地域とは、「コミュニティの集合体」という要素が強いなと感じています。
魅力的な人や場所があって、そこに集まる人が小さなコミュニティを作る。そのようなコミュニティがつながっていくことで、いつのまにか地域の魅力が増していくイメージです。
ひろかわ新編集は、広川町の地方創生プロジェクトですが、行政境など関係なくつながっていくコミュニティの一つになり、周辺地域全体の魅力向上に貢献できればいいなぁと考えています。
そのような魅力的なコミュニティを作り、繋がっていくにはどうすればよいのか。
次回は、「クリエイターによるお試し居住が持つ可能性」という切り口から書いてみようと思います。